新田次郎『先導者・赤い雪崩』

言わずと知れた山岳小説の雄(このカテゴリ区分を本人は嫌がってたんだってさ)、新田次郎の短編集。結論から言うとどれも面白くなかった。今まで読んだのが大作というか代表作ばかりだったからそう感じたんだろうけど、やはり代表作を代表足らしめているのは物語の普遍性であって、現代人でも共感できる人間のストイックで骨太な精髄を表現してるところにあるんだろうなと思う。
でもって、この短編集はその点どれもこれも古臭く、共感も糞もないというか、男女のちちくりあう表面的な昼ドラ的下世話感があって、新田先生!らしくないじゃん!と思った。ざっくりいうと処女じゃない女が悪であったり、どころか童貞じゃない男は純粋でないみたいなことまで言いだす始末、一夜を明かせば「実質的には新婚」だと言い張ってみたり、なんでこう表現しきれないなら男女の云々を避けて書けなかったかな〜編集者になんか言われたんかな〜とか、全く共感ゼロの息苦しい作品群に勘ぐらざるを得なかったんだけど。春琴抄がそうであるように、ロミオとジュリエットがなしえたように、さらに言えば源氏物語が現代人にも受容されるように、この古臭さは新田次郎の生きた時代ゆえというよりは、新田次郎の性に関する狭量ゆえのつまんなさなんだろうなあ。まあ短編集だからよい時間つぶしにはなったけども。