アシスタント

私がバレエを始めたのは、今思えば魔が差したとしか思えない高校2年生になったばかりのときだった。骨格は既に大人のものとなり完成されていて、いわば私というカサカサ音を立てる枯れきった落ち葉に「プリエよ〜」「デヴロッペよ〜〜」とお水を与えたところで、吸収されることも無く表面を流れ落ちていった。バレエをやっていない人より足りない筋肉、バレエをやっていない人よりバレエに向いていない骨格、要するにバレエをやるべきではなかった私が悪魔にそそのかされて15年、そんな私が本日先生不在につき、アシスタントのアシスタントをしてきた。


最年少クラスで、真っ直ぐ立っていることもできず、言葉も半分以上理解していないような子供たちに向かって「ならんで〜」「おひざのばして〜」「おててつないで〜」とやるわけである。自分の子供が生まれるまでは、私はあらゆる子供に対して短気で寛容さに欠けており、子供と話すのもいやだったし遊んだことも無く、当然子供たちも私には近寄らなかった。もちろん今でも自分の子供を除き、世の子供を好きになったわけではないが、とりあえず子を育てた経験が役立った。アシスタントの人は子供はいないが子供好きで扱いが上手い。子がいるかいないかは無関係のようである。


話はそれたが、要するにこんな動物を調教するようなクラスでさえ、一歩足を踏み入れれば私が子供たちからも、その親からも「先生」と呼ばれる。その「先生」は子供の頃、今子供たちに教えていることと同じことをやった経験が無いと親が知ったらと思うと、いささか気の毒である。経験が全てとは言わないが、ないよりある方がずっといい。覗き込む親たちが「あら?今日の先生、この間の発表会で超ドキュンなタコ踊りかました人じゃない?」「アラ本当、あの人が先生なの?あの踊りったら激ゲボだったよね〜」なんて会話をしているような妄想に駆られる。限定2回だけのアシのアシである、勘弁してほしい。