踊れぬ黒鳥


あと1回のレッスン、2回のリハ、1回のゲネ、そして本番です。今日は2回のリハのうちの1回です。私にとって白鳥の湖ってのは本当に本当に特別な演目でした。1回1回のレッスンを大切にしてきました。それがあと数回だと言うのに、否だからこそ、憂鬱でなりません。私は男をだまくらかして無駄に時間を食わせるオディールです。オデットへの憧れなど微塵もありませんでした。でも今はオデットの幻影に悩まされ、その立場に憧れ、なのに王子とオデットの二人が今生で結ばれるハッピーエンド版を演じなければならず、しかも白い衣装を着た群舞のオディールだなんて失笑です。夢と現実との境も分からず、今朝のほんのわずかな眠りさえもオデットに対する妬みで破られました。こんな体調でのぞむリハーサルなど意味がありません。悪魔の使いが白鳥に取って代わることなど永遠にないのです。そうだとするならば、私はオデットに対する憧れなどかなぐり捨て、心の底から破滅、破局を願い続ける、今までどおりのオディールに徹さなければならないのです。私自身を守るために他人を傷つけることなど容易いはず。それができないならば、また私自身が傷つかなければならないのだから。