ギエムのボレロ

1/31、ギエムのボレロを見てきた。4階席なのに相当高額。でもいいの、彼女は生きたレジェンドだから。私はその生き証人になったと思うわけよ。「ギエムのボレロ」、この熟語自体がもうギエムが超バレリーナだった私たち世代の崇高なる伝説と言うか、ちょっと前ならドンのボレロ、更に前ならプリセツカヤの瀕死という都市伝説みたいなもの。
ギエムが再びボレロを踊ることは無いだろうと予感する観客の、固唾を呑んでその一挙手一投足、その指先、その髪の先の表現まで見落とすまいとする静寂に会場の空気は緊張に張り詰め、高まる鼓動に、ゆるぎない表現の世界に、怒涛のごとく飲み込まれたかと思うと舞台上では全てが開放され、また収斂されていく。予定調和ながら最後は割れんばかりの拍手に包まれ、現実の世界に引き戻される。彼女は最強の個性で、あるときはわがままで頑固で、近づきがたく、多くの衝突と孤独とを繰り返したのだろうが、ただ一つの誠実は我々観客と対面するときで、4階席からはるかに見下ろす笑顔は、最大の賛辞と感謝をもってするにふさわしいパフォーマンスに対する満足を表しているのだろう・・・と思う。全て想像よ。でもそれは観客たる私の特権。今日の彼女が過去最高のパフォーマンスであっただろうと、勝手に想像して、今夜は味噌煮込み食ったかなとか想像して、深く心にしまいこむの。「ギエムのボレロ」を見た私の人生は、これからちょっとだけ充実度が上がるかもね。そんな夜でした。