じゃじゃ馬ならし

高校を卒業してから、バイクに乗り始めた。
カッコいい大きなバイクに乗りたかったが、ヒョロな私で扱えるのは250ccが限度だった。私は中古のものがあまり好きではない。気に入ったものなら気にしないこともあるが、車やバイクはどうしても中古は嫌だ。一度中古のバイクに乗っていたときに、そいつのエンジン不調のために大事な講義を何度逃したか分からない。それが中古嫌いを決定的にした。


中古の乗り物は前のユーザーの、クラッチの癖みたいなものがついている。それがいやでいつも新車を買ってもらっていた。親が同じ考え方で助かった。かといって私の運転が上手いわけではなく、どちらかといえば下手だし荒い。そんな私が新車から慣らしたバイクは、どうしようもないじゃじゃ馬に成長してしまった。特にキャブレターが腐ってて、峠を走るとき大した標高差があるわけでもないのに、すぐに走行中エンストをする。何度下り坂を利用して押しがけしたか知れない。登りはずっと1速。箱根の峠道を車がすれすれに追い抜いていく。完全にエンストしたらこんな山中でよもや野宿…という恐ろしさに、普段は悔しい煽りもイヤミな感じの追い抜きも気にならなかった。


このじゃじゃ馬とは色々な経験を共にしたものだった。しかし別れは意外にあっけない。
私はバイクで何度か事故をしたが、最後の事故でバイクを手放した。20〜30キロで走行中にタクシーにぶつけられ、私は路面に放り出された。雨上がりで路肩には水がたまっており、そこに突っ込んでずぶぬれになった。服が破れて身体をすりむき、靴は脱げて裸足。でも割りに平気で、歩いて歩道に避難した。そこにぶつかってきたタクシーの運転手が慌てふためいて近寄ってくるし、飲食店の前だったので客が野次馬となって群がり始め、動くな!と外野がうるさいからとりあえず動かずに歩道へ横になった。救急車が呼ばれて担架が来たが、モタモタしてるので自分でよっこらしょと乗り込んだ。結局全身打撲だったが、このときはまだどこも痛みを感じなかった。救急車に乗り込んで初めて、ちょっと怖くなってきて寒くも無いのに歯がガタガタと震え始めた。救急隊員のおじさんと、別にどこもひどい怪我してないのに救急車呼ばれちゃってすんませんと謝ったり、そのおじさんもバイクに乗ると言うのでバイクについてちょっと雑談してるうちに、病院に着いた。すりきずと打撲だけで、検査が終わったらそのまま家に帰ることができる軽症だった。



バイクは直せば直ったのだろうが、親が学生じゃないのだしバイクはもういいだろう、と車に変えることを提案してきた。私も趣味というより実用としてバイクに乗っていたので、ピザ屋のスクーターの屋根ですら羨ましかったから、未練も無く車に変えた。最後まで愛着の持てないバイクだった…。
屋根さえあればなんでもいいし、維持費は私が出さねばならないので、軽自動車を新車で買ってもらい今年で5年目。軽なだけに乗り心地は悪い。ブレーキはダイレクトに響いて、助手席では気分が悪くなる。タイヤは路面の凹凸を如実に伝えて快適とは程遠い。エアコンがうるさくて同乗者と会話もできないし、加速もできない。しかし身についたハンドリングとコンパクトさは嫌いではなかったがついに、この軽とは明日でお別れなのである…