港へ

新しい車に慣れるためにひたすら運転を続けた一週間だったが、とりあえず一区切りってことで慣らし運転週間最終日に名古屋港へ行ってきた。誘導されるままに駐車場へ入り、出たところはシートレインランドという小さな遊園地みたいなところだった。私が知っているのは金城ふ頭の変な形のビルみたいなやつだけなので、こんなものがあるとは驚いた。歩いていくと名古屋港水族館、さらに進むとイタリア村…これがご当地名古屋で新スポットとしてうわさの…。


車で走ることが目的だから、目的地についても特にやることはなく、雨も降ってきたので食事を済ませるとすぐに帰路へつく。幹線道路はやめて、裏道から出ると見慣れない光景が広がっていた。最近よく見かけるようになった「レンタル倉庫」も市街地とはスケールが違う。工場も倉庫もどれも大きく、潮風に晒されてところどころ錆が浮き出ている。休日、夜の工場はどこもまだ眠っていた。小雨に濡れた巨大で無機質な壁を、街灯の小さな明かりだけが時折瞬きながら浮かび上がらせる。こんな倉庫街には小企業の事務所もたくさんあり、数十年も時が止まったように、波打つすりガラスに金文字で縦書きされた会社名はいくらかかすれ、不思議な意匠を凝らした窓の鉄格子に門扉、きしんだ音を立てるであろう観音開きのドアを開ければ、時代遅れなねずみ色の作業服を着た女性が、誰にも知られることなく深夜だけ番をし、朝になるとひっそりと消えていくのかもしれない…


平日の慌しさなど思い起こさせる隙の無い、巨大な廃墟のように雨に濡れながら静止した町は灰褐色に覆われあまりに美しく、夜の暗闇に融合して沈み、遠い過去へ帰って行くかのようだった。もしや私の通った道は現世(うつしよ)のものではなかったやも?