画廊オーナー

私の友人(C)が毎年、同じギャラリーで油絵の個展を開く。毎年Cから耳にするのは画廊のオーナー(通称ババア)の愚痴であり、毎回ババアと喧嘩しては「来年は違う画廊で個展をやる!」と切れまくっている。しかし今年も同じ場所で開催する旨の葉書がやってきた。


初めて行ったときからババアには挨拶をしろ、会場では静かに小声で話せなどの「伝令」が毎回来る。喫茶店を兼ねたこの画廊は洒落ていて、落ち着いた場所にあるなかなかのギャラリーなのだが、ババアが喫茶店主としてコーヒーの売上をもCに課すような話を初めから聞いていたので、見に行っても絵どころではない。コーヒーを飲めない私は、喫茶コーナーでカウンターの後ろにいるババアの、カップを片付ける音が妙にイラついているように感じる。私のような「Cの友人」という売上につながらない鑑賞者は相手にせず、ふらりと入ってきたおばさまなんかにはキャッチセールスみたいに張り付いて、営業をかけている。今年も来場にあたって「注意事項」の伝令がやってきた。開催後まもなく、小さな子供を連れたCの高校時代の友人がやってきて、帰った後にババアはCに「同窓会じゃないんだから子供なんて連れてこさせるな」とグチグチやったらしいので、私にも子供を連れてくるなとのことであった。


しかしこのババアなかなかの手腕で、画廊のオーナーは現場を見続けているので、売れる絵と売れない絵の選別に長けた面があり、「こんな絵じゃ売れない」的な指導もCにしているようで、Cはそれを生かしているのか全く関係ないのかは知らないが、毎年ほとんどの絵を売ることができている。学校を卒業してからはなかなか他人からの指導を受けることは難しく、ある意味客観的に自分の仕事を顧みることができているのかもしれない。ババアも仕事なのだから、絵も買わない、コーヒーも飲まない客が子供を連れて、仕事場でキャアキャア騒いだら迷惑なのだろう。公演でも美術館でも6歳未満の子供はご遠慮くださいというのが普通だし、レストランでも少なくとも座席に大人しく座っていられる年齢でなければ迷惑をかける。仮にもアート作品を扱うギャラリーに小さな子供を連れて行くことは、配慮に欠けていると言えるだろう。


とババアのことを容認する考え方もあるのだろうが、私としては
大御所を多数輩出してるような大ギャラリーじゃあるまいし、田舎のコーヒー屋風情が偉そうにパトロン気取りで画風にまで口出しやがって何様だ。Cが前払いして買ったチケットでコーヒーを客にふるまうと、どうして現金で払わせないんだい!なんてなじってみたり、場所代はもとより、ギャラリーをお借りするに見合うミカジメを絵の売上から上納しとるだろうが。ガキはお断りって、たかだか小品を20点ほど展示する壁面しかないくせに、子供がぐずれば出口まで10歩だろうよ。あからさまに客によって態度を変えて、芸術家気取りもええかげんにせい!


・・・さてCの絵は在住しているバレンシアの、陽光すら感じるような伸びやかで大らかな画風の、素直で美しい風景画です。二日後に見に行ってきますが、絵を見るのは毎年楽しみだし、楽しいひと時となるでしょう、ババアさえいなければ。もちろん子供は置いていきます。