『ふたりは屋根裏部屋で』

この本を初めて読んだのは小学4年生か5年生の頃だっただろうか。それ以来数十回読んだ、私の生涯読んだ本の中で最高傑作と断言できるのがこの『ふたりは屋根裏部屋で(さとうまきこ著・あかね書房)』という児童小説だ。
傑作な本はたくさん読んだと思うが、その中でもこれが最高だと言い切れるのは、子供のときに受けた無防備な心へのインパクトがあまりに強く、大人になり打たれ強い心では感知することの無い衝撃が、記憶に深く刻まれたからだろう。しかしこの小説をあらわすキーワードは、あまりにも現在に至るまでの私を構成するエッセンスを凝縮したものであり、大人になってから読んでもその味わいに変化は無く、この本が血となり肉となって私を形成していると言っても過言ではない。いや過言か。まあいい。


物語は小学生の主人公エリが古い洋館に引っ越してきたところから始まる。時間が止まったかのようにひっそりと佇む洋館を父親が格安で借りることができたのは、管理者からただ一つ守って欲しい条件を出されたからだった。それは屋根裏部屋に入らないこと。この屋根裏部屋の秘密をめぐって物語は展開していく。屋根裏部屋はエリだけにその秘密を明かすため、閉ざされた記憶とともにその扉を開ける。時空を越え数十年前の過去とをつなぎ、エリは一人の少女と出会う。
愛に飢(かつ)えた過去と現在ふたりの少女の葛藤、自己形成に揺らぐ思春期の少女の迷い。哀しい記憶を封じ込めた瀟洒な洋館を舞台に、ガラス細工のように繊細で透明な少女たちの、切なくも美しい物語をつづっている。
色褪せたセピア色の風景の中へ一筋、落とした薔薇色の水滴がごとく鮮やかに光景を浮かび上がらせる見事な世界は、私を果てしなく溢れいずる想像の泉へといざなってくれるのです。


中尾彬が一日に3冊本を読むとか言っていたが、噂に聞く速読法というやつらしい。私は本を読むのは多分遅い方だと思うので、どうでもいい本なら速読法で読んでみたい。しかし『ふたりは屋根裏部屋で』や赤毛のアンなんて、妄想たっぷりに行間にこめられた空気まで感じながら読むのが好きだけど、速読でそこまでできるんだろうか。やはり良い小説は良い食事同様ゆっくり楽しみたい気もする。
さて話はそれるが、私は本を読むのも遅いし、絵などは信じられないほどの遅筆だ。早く描けるというのはその分だけ神から時間を与えられているのだから、それだけで素晴らしい才能だと思う。料理をするのも遅い。裁縫も失敗ばかりで遅い。早いのはバレエで振付を覚えることだけで、よく皆から振りの覚えの早さを褒められる。というか、早さしか褒められたことがない。誰よりも早く覚えたって、誰よりも膝が曲がって腹が抜けてちゃ、そりゃそれ以外、声の掛けようもないはずね!