舞踏神に愛されたミューズ

私の通うバレエ教室にはとんでもない人がいる。とんでもない人の詳細は私の友人・キョンコスカヤさんのページに掲載されているのでここでは割愛しますが、バレエをやるために生まれたような素晴らしい身体の持ち主です。


なんと驚いたことに、彼女は34歳…それを知ったときはますますのけぞりました。初対面ではその実年齢より、10歳以上若いだろうと思っていたほどです。私も数々の教室に顔を出したり在籍したり、大人からバレエを始めた人たちをそりゃもう、延べ何百人と見てきましたが、彼女のような人は一人として見たことがありません。子供から何年も続けている中高生なんかよりもずっと見栄えがし、しなやかな鞭のように強靭な筋肉は、その年齢など一切感じさせず、むしろダラダラと惰性で練習に来ている子供などよりよほど美しく、隅々まで神経が行き届いているのです。子供たちが何年もかけて少しずつ体得していくことを、バレエを始める前から既に備えていた彼女は、バレエを始める前に自分の甲が、膝が美しくしなることがバレエにとって良い条件だとは、露ほども知らなかったそうです。私が10年15年と延々同じ注意を受けているのに、彼女は受けた注意は必ず、直していくことができます。なぜなら、正しくバレエを踊る肉体を訓練なくして、既に備えていたのだから…
彼女が目に見える速さで上達していくさまは、神の奇跡を見ているようです。本来ならば、彼女のような肉体を備えた人が幼少よりトレーニングすると、プロダンサーになるのでしょう。ただ幼少時に彼女のようなプロポーションを将来的に備えるかどうかなど分かるはずも無く、だから日本では猫も杓子も3歳からバレエを始めさせて、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる的に博打をうつしかないのです。


遥か高みにある彼女には嫉妬の念さえ抱けません。たとえ今私にできて彼女にできないものがあったとしても、ほんの半年で、否もっと早く、彼女はずっと先へ進んでいくのです。きっと彼女は初めてバレエのレッスンを受けたとき、後ろに足を上げただけでそれが美しいアラベスクになっていたことなど知る由もなかったでしょう。膝が曲がって股関節が閉じていては、何百回注意されたところでバレエになんてなるわけがないのですから。バレエは、選ばれた人こそ踊れるものだと彼女を見るにつけ、感じるのです。私が踊っているものは一体なんなのだ?