別れ

自分の愛しいものと別れることにはどれほどの苦しみを伴うのであろう。近しく、そして愛して止まないものとの死別にはどんな慰めも届かない。今、私の友人Sがその暗闇の中にある。
Sは私が人生でもっとも辛いとき、誰よりも私を励まし勇気付け、私の痛みのために祈りを捧げてくれた人である。恩義とは私があまり信用していない信仰にも似た、あまり根拠の無い継続的義理ではあるが、しかし彼女への恩義を私はいつでも心に住まわせている。彼女が失った愛すべきものと私は会ったことも無いが、しかし彼女の中に絶大なる存在感を有した彼に対し、私は敬意をもって、ようやく平安の訪れた魂が穏やかに天に召されることを心から祈らずにはいられない。


存在の一部を欠いた彼女を癒すことができるのは、唯一時間でしかない。失ったものは狂おしいほどの長い時間を経て、ようやく少しずつ自分の身体の中に吸収されていくのだ。Sは悲しみと戦いながら、時間をかけて喪失感を心の中に深く融合させていくのだろう。私ができることは、ただその苦しみが少しでも和らぐことを祈るだけである。