『誌上のユートピア』展

近代日本の絵画と美術雑誌1889-1915、と銘打たれた展覧会に行ってきた。最終日の前日にも関わらず館内はほぼガラガラで、この企画に対する一般への馴染みの薄さがうかがえるものの、その内容は身近で、意欲的で、着眼点鋭いユニークな催しだった。
私の実家には「アトリエ」なる美術雑誌が並べられていて、確か1970年代から80年代にかけて父が集めたもので、表紙と中の2ページないし4ページくらいは、コート紙のてらっとした質の悪いカラーで、あとは白黒だった。その当時としては別に珍しいことでもなかったと思うが、その貴重なカラーページの図版は、普段モノクロの世界のなか、恐竜に彩色するかのような想像の世界だけで美術を捉え、実物に触れることはまずありえない子供にとって、まるで本物と同じような価値を持つものであり得た。この展覧会は更にそれを100年近く遡るもので、当時のあるいは写真による複製、あるいは石版による多色刷りは、その当時の人々にどれだけの衝撃を与えたかは想像に容易い。雑誌と言うのは不思議な媒体で、ほとんど無価値でも数十年と保存すれば違った意味での価値ができてくる。ユートピア展に出展されていた雑誌の数々は、そういった意味での価値もあるものの、既に刊行当時、その物自体に美術としての価値があり、携わること自体がアートだという気概を感じる。現代に蘇ってなおその意匠は斬新で、輝きが衰えることはない。非常に興味深い展覧会だった。