荒島岳(十二座目/百)


嵐のような八月が終わり、ふと気付くと夏山シーズンも後半に入っている。人生は短い。自在に身体が動かせる期間はもっと短い。最近とみに衰えを感じることもあり、とにかく山を目指すことにした。しかし八月中、私が多忙にあえぐ期間は嫌味なほど晴れ渡っていた空は、九月に入るとまともに晴れる日がなかった。ぽっかり晴天予報のこの日、ソロでは心もとないが、これを逃すとまたいつ晴れるとも知れないので、日帰りできる数少ない百名山荒島岳を目指すことにした。


【行き方】
今回は最もメジャールートである勝原ルートを採る。東海北陸道白鳥ICを出て、国道158号線を福井方面に北上する。勝原登山道はカドハラスキー場の中を通るルートだが、2010年にカドハラスキー場は廃業し、分かりやすい看板がない。近付いてきたと思ったら注意深く入り口を探すと吉。見逃しやすいが、一応小さな看板は出ている。林道などの悪路を通る煩わしさは全くなく、舗装された国道からすぐに登山口につながっているのは嬉しい。



登山口に到着。ちゃんとした水洗トイレあり。しかし……晴天予報じゃなかったか?? 今回は前夜泊でもなく、運転でぐったりしたこともあり、しばし登るか登らざるかハムレットのごとく車の中で考える。



トイレの横に登山届を提出するボックスがあり、その中にアンケート用紙が入っている。そいつを記入してどこやらに持って行くと、無料で荒島岳の山バッジがもらえるとのこと。ただ他の場所で購入することもできるらしく、無料の山バッジのデザインがダサいこともあり、まあ買って済ますか。と登山届だけを提出。ボックスの中に蛾がいっぱいでかなり引いた。



平日で、しかもこんな天気だからか、駐車場には私一人。かっちーに天気予報の再送を依頼するも圏外……! こんな日に一人だなんて、心の底から登りたくない。でもどこからか歩いてきたおじさんが一人、登山口から霧の中へ消えていく。人がいるならと心を励まし、ダラダラ時間をかけて準備をし、6:15出発。



ガレガレのスキー場内を歩き、振り返るとこんな感じ……もうテンションだだ下がり。雨も煩わしいのでレインウェアを着てみるが、これが大失敗。標高の低い荒島岳の序盤でこんなものを着てしまい、雨に濡れるよりも壮絶に汗だくになってHPは赤ゲージに突入。登山後30分でもう瀕死。登山を辞めるか、レインウェアを脱ぐか……ってことで脱ぐ。すぐ身体はずぶ濡れるが、どっちにしたってずぶ濡れ、この際気持ちいい。



7:25、雨に濡れたススキと萩を掻き分け、ようやくリフト終点に到着。身体はバテバテで既にコースタイムもかなりオーバー、リフトの残骸も古代遺跡みたいになっちゃってて、もう帰りたくて泣きそうになる。かっちーは大阪出張で早朝家を出ているはずだし、一人で学校へ行くよう頼んでおいた娘がちゃんと準備を済ませたのか心配でならん。しかし圏外、しかも雨。こんな情けない結果を携えて帰るために娘を一人置いてきたのかと、とにかく先へ進む。



しかしなんとか足を動かした途端に「荒島岳登山口」の表示……やめて! もうここまでで疲労困憊してるのに、ようやくスタートラインに立っただけだなんて何のご冗談。



急登が続き、ぬかるんだ足元はとても滑りやすい。聞こえるのはガスに濡れた葉から滴が絶えず落ちる音と、その水滴がザックに落ちてバタバタと叩く音。泣きそう。濡れてるのは涙か汗か鼻水か……もう分泌してるのが何液なのか分からぬほど全身ぐっしょり。取らんでいいザックカバーまで取ってしまいワケわからん。



8:15、白山ベンチ。ここからの白山の眺望は素晴らしいらしい。が、眺望どころか数十メートル先すら見えん。この黄色い看板はこのルート上に5枚あるらしいが、これは二枚目。行きも帰りも、一枚目は見つけられなかった。



8:30、三枚目の看板、深谷の頭。歩いても歩いても急登。本当に急登なのか、この天気が必要以上に急登に思わせるだけなのか、それともソロの被害妄想か、とにかく道が急で辛い。



8:45、あと2キロの表示。普段ならあともうちょっと♪とか喜ぶ場面だが、どうもこのあと2キロは胡散臭いのだ。



9:25、しゃくなげ平。ここに至る途中、何度も平らな場所に出て、何度もそこを勝手にしゃくなげ平かと妄想し続けていたので、突然の現実にえ〜〜?? となる。



山頂へ向かう唯一のルート、もちがかべは地図にも危険マークがついてるし、こんな看板まで出ている。「これより頂上までの登山道で滑落死亡事故が多発しています」……これがもう少し手前だったら確実にやめてたような気もする。しかしもう随分進んでしまったので、行くしかない。。。



いきなり階段に鎖。なんかなあ。



一瞬、どっかの山が遠くに見えた。白山?



眺望がなくてどこがどの山なのかも分からない。これか? と淡い希望を抱いて進んだこの道は、前荒島への道。あとちょっとか、というところで私に先行している唯一のおじさんが下山してきた。「上は真っ白で何も見えんよ」の一言に、またガッツリ二つ折りにたたまれる私の心。「今日の予報は晴だって言ってたのにね」と傷を慰め合う。



前荒島を越え、いよいよ!



ジャジャーン!!
10:40、登頂。時間かかった〜〜



祠にて、登山の無事をお礼し、下山の無事を祈願。



なるほどー、ここからは360度、このような眺望が望めるわけですな



晴れてればね


ザックを下ろしてほんの数分だけ休憩し、虫もすごいのですぐに下山開始。急登ばかりのルートは、下りるのも本当に一苦労。急坂を下りるのは、急登と消耗度は殆ど変わらない。途中ですれ違ったおじさんに、「ここはしっとりぬれたブナ林に趣があるし、展望が売りの山じゃないから諦めがつく」なんて話しかけられ、そうですよね〜なんて同意する振りをしたが、諦めなんかつかない往生際の悪い私である。


へとへとになって13:35、やっとこ下山。もう登山なんてアホくさいものはやめようと、激しく決意させる厳しい山行だった。
娘の下校時間には間に合うまい、しかしとにかく急がねばと、山バッジを買うため道の駅九頭竜へ。そこで650円払って出してもらったバッジは、あのアンケートを答えるとどっかでただで貰えるバッジと同じのダサいやつだった


……もう、しばらくソロは勘弁。なんか色んな意味で疲れた山だった。