諏訪根自子女史


ヴァイオリニスト諏訪根自子さんがまだご存命とつい最近知った。その人生はあまりに破格、ただ彼女について書かれた書籍はあまりに少ない。私は彼女の生涯について例え自費出版だろうと出させていただきたいと思ってる…って思うのは自由よね。大体そんな感銘を受けながら安否も知らないなんて、あらあら・・・
諏訪根自子さんというのは私が知る限り、近代日本の女性ヴァイオリニストの第一人者ではないかと思う。大正時代に生まれ、激動の昭和を、世界を舞台に活躍した。当時の世相からして、女学生の彼女が国費を受け16歳でベルギーに渡るという事自体がもう並外れた事なのだけど、更に特筆すべきはその美貌。5等Greenさんなんてものすごいテクニックで素晴らしい経歴の持ち主だけど、どうしても下種な庶民には吸わない晶子さんの方がフィーチャーされちゃう的な、バレエや芝居みたいな総合芸術と違って音楽ってそこだけで勝負できるはずなのに、やはり舞台上では如何せんビジュアルって重要な要素と、結果なってしまうような。いや、私にとってはなんですけどね。(っていうか5等さんはすごくキュートな才女よ!美人ではないけど。)逆に美人がすごいテクニック持ってると、美人なのにお上手ね・・・などと斜め45度から思うこともあります。それはさておき、諏訪さんの輝かしい音楽経歴とともにその名が全国に轟いたのは、その美貌が重要なファクターであったことは疑うべくもない。ただ、あるいは時代にもてはやされ、またあるいはその時代に翻弄された感もあり、帰国後にリリースされた彼女の録音は今やほとんど手に入らず、その数も少ない。大いに活躍した彼女ではあっても、演奏自体がまだ芸術的土壌が肥えていない戦後の日本の、万人に受け入れられる解釈ではなかったのだろうか。音楽家としての彼女の変遷を知るには、音楽を聴く以上の手立てがあるはずもないのだけど、もうそれも叶わない。
未だに女性への偏見は超えがたく厚い。差別とまではいかなくても長年、不文律として培われた性差の役割分担が簡単に変わるわけも無い。その感覚は何も男性だけのことではなく、むしろ女性の意識の方がよほど大きな問題であり、そんな中今よりも遥かに活躍の場が閉ざされていた女性が、ここまで名を残すことの途方も無い努力と才能に目がくらむ思いがする。私もせめて根自子女史の、万分の一でも努力しなくちゃね。