伊吹山(三座目/百) 一回目


私が子供時代を過ごしたエリアでは、小中学校の校歌に伊吹おろしの〜なんたらかんたら〜みたいな歌詞の入っているところが結構あるらしい。岐阜と滋賀の県境あたりにある伊吹山が、この時代に愛知県北部へどれほどの影響を与えているのかは分からないけど、大昔にこのあたりではひときわ高い独立峰である伊吹山から吹き降ろす冷風ってのは、季節感への影響が少なからずあったのかもしれない。

さて、せいぜい高くても600メートル程度の低山を登るのはもちろん下から登るわけだが、高山となると、これまで登った高山はスタートが2500メートルとか、6合目からだとか、登山気分だけを楽しむものだったので、伊吹山くらいの山を登山口から登り始める方が、これまでのものより相当長く、辛く感じた。

結構登ったのに、まだ1合目…。うちの近所にある400メートルの山だったら、もう登頂できてる距離を登ってきたのに、ここからスタートという事実がまず、気分を折らせる。そして何より、ごく普通に暑い。下界は晴れ渡って、気温もぐんぐん上昇、日を遮るもののない序盤は、ひたすら耐えて歩を進めた。アキレス腱が伸びそうな斜度が延々続いていく。


「あと1合でもう辞めたい病」が何度も出現するも、足元だけを見て加藤文太郎の気持ちになろうとする。なれるわけがなく、とりあえず5合目。頂上には終始、雲がかかっていた。登頂するまでに晴れるだろうか?


もちろんそんな都合のいいこともなく、頂上に着いても霧の中。展望どころか今来たばかりの道すら見失う。頂上まで車で来ることができるので、すごい人出でお土産屋も並び、水洗トイレまである普通に観光地の賑わい。事前の情報どおりだったから大して驚かなかったけど、確かにこのギャップは意外。でも苦労して登ってきて、苦労せず登ってきた人達がたくさんいることに、別に悪い気持ちはしなかった。やっぱり私はこういう世間が好きなんだろうなと、再確認する思いがなくもない。高い山じゃないので、こんな真夏ではなくもう少し涼しくなってからの方が良かった。達成感も、相変わらず無い。登るたびに思うのだけど、私は登山が好きじゃない。人よりずっと体力が無いし、精神力も無い。たまにしか行かない登山で、それが鍛錬できるとも思わない。強いて言えば、道具があるから?新田次郎が好きだから?・・・わからん・・・。また近々で登る予定が入っているのに、やっぱり心は躍らない。何故登山だ。