小秀山 一回目


今シーズンに入り、竜ヶ岳、白草山と軽い山で身体慣らしをしたので、満を持してごっつい山を目指すことにした。でもこの時期、高山はまだ残雪で私には登れないので、ぎりぎり雪が残っていなくて、それでいて登り甲斐のありそうな小秀山(1,982m)に目標を定める。

【行き方】
中央道中津川ICから257号線に入りひたすら加子母方面へ進んでいく。舞台峠付近に「加子母の杉」へと向かう標識が出ているので、右折して加子母の大杉へと向かう。生活道路をくねくね進んでいくとそれはそれは立派な杉がどーんと立っている。杉を右に見ながら通り過ぎ、ほんの数分進むと乙女渓谷キャンプ場に至る。登山口はその中。荒れた林道を長距離走ることもなく、アプローチは非常に良い。駐車スペースも20台分くらいある。万一そこがいっぱいになっても、キャンプ場の中にも車は停められそう。ただ有料っぽい。


7:50スタート。車は既に15台以上はあっただろうか。


登山口は二の谷ルートと三の谷ルートの二つ。ほとんどの人は二の谷で登り、三の谷で下りてくる。


渓谷の横に作られた木道はよく手入れされていて、とても歩きやすい。マイナスイオンたっぷしなひんやりした空気の中を良い気分で進む。


ただ、いたる所でこのように土砂が崩れて寸断されている。自然の力の前には木道なんてそれこそ木端微塵、いとも簡単に破壊されてしまう。


8:00、碧水湖。青く美しい、小さな淵


夫婦滝まではこの木道が続く。木漏れ日の中をハイキング気分で歩く。


8:10、屏風岩。大きな一枚岩


8:13、はじめて出現した滝、ねじれ滝。その名のとおりねじれてる。このあと、いくつかの滝を見る。


8:20、和合の滝


上部へと進むに従い、崩落個所は更に大きく、急になっていく。まだ崩れて間もない個所も多い。登山道は絶えずその形を変えている。人間時間のオーダーとあまりに違う山の時間。数世代先の人が見る小秀山は、もう私の知るこの山とは違うんだろう。


8:25、声の泉。岩の間からちょろちょろ水が流れている。耳を澄ますと乙女の囁きが聞こえるとか。10秒ほど沈黙してみたけど、乙女はお留守のようで。


8:45、登山道より烏帽子岩を臨む。ヤッターワン

このあたりで、恐らく本日最終組のおっちゃん二人連れに追いつかれ、進路を譲る。その後しばらくこのおっちゃんたちと抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げることとなる。


9:00、夫婦滝に到着。ここまでで序盤のハイキングコースは終了となる。滝の横でおっちゃんたちが休憩していた。おっちゃんたち、休憩は多いんだけど、抜かしてもすぐに追いつかれてしまう。疲れやすいけど健脚なおっちゃんたちなのである。


夫婦滝の横に掲げられた看板。いやいや、ここまででも十分軽装では危ないよ。


岩なだれのあとみたいにゴテゴテした急斜面。


9:30、子滝


9:40、孫滝


9:55、鎧岩。その名のとおり厳つい岩が張り出している。


10:25、二の谷コースのクライマックス、カモシカ渡りの岩登り。私が登れるくらいなので困難ということはないんだけど、岩をよじ登っている!という冒険感覚は得られる。


登りきったところから下を見たところ。両側は木のてっぺん。木があるから高度感はないんだけど、実は意外と細い岩でどっきりする。


10:50、三の谷コースと合流するポイントに到着。ここから山頂までは一本道。

カモシカ渡りで力を使ったからか、この辺りからどうも、今まで感じたことのない感覚に襲われ始める。それは睡魔。前日は2時間しか寝ていない。しかも夢ばかり見て、眠りが浅かった。だけど歩かないことには先に進めない。


11:20、ピラミッドピークの兜岩。岩を避けて岩場コース、断崖横断コースと巻く道は、断崖横断コースが崩落しており、岩場コースしか通れない。


岩に登って見遣れば、遠く北アルプスの山々が見える。とてもいい天気。最高の展望。


……そうですか。……北アですか。

この兜岩から先のことは、実はよく覚えていない。猛烈に眠いのを我慢しながら歩き、その歩く振動で車に酔ったときのような、ひどい吐き気に見舞われ始める。


とりま岩を下り、歩き始める。地図によれば、ここから1時間半で山頂に着く。でも足が動かない。動かしているつもりなのに重い。


11:35、第一高原通過


11:50、第二高原通過。このあたりから山頂を見通せるようになる。おっちゃんたちにはとうの昔に引き離され、登山道を山頂に向かっているのが見えた。


このあたりから残雪が増える。重い足が更に重くなる。もうあと一週間もあればこの雪も無くなりそう。


雪を避けて歩ける場所もある。でもズッポリ足跡が埋まってる場所もある。踏み抜きそうで、ぼんやり歩くわけにもいかない。


12:20、第三高原。山頂の小屋が果てしなく遠くに見えた。この遠い小屋を見たとき、私の中で何かが終わった……。


あーちょっと


あーーちょっと休憩……。

目を閉じてすぐに団体客がどんどん私の横を通過し、周囲はひどい雑踏。頭の片隅で、邪魔だろうなあ、往来で横になったりして悪いね、なんて言い訳しながら、いい加減邪魔だろうと思って起き上がる。寝転がる前より更に吐き気が強烈。

ほんの数十秒横になっただけのつもりだったが、かっちー曰く8分間眠っていたらしく、その間誰も通ってないらしい。えー!


もうなにがなんだか分からんまま、脚を引き摺って13:10、山頂小屋到着。小屋は見えるけど山頂は見えない。まだ山頂は遠いと思って、とにかく小屋へ直行。


ああ綺麗なお便所。中も綺麗なバイオトイレ


居室は二つに仕切られている。2011年にできたんですって。まだ新築の匂い。こんな綺麗なところなら泊まりたいくらい。

休憩したからなのか、ご飯を食べたからなのか、まるで何事もなかったかのように気分が復活する。いざ山頂……!と気合を入れて出発しようとしたら、下りてきたおっちゃんたちに出会う。これから山頂行きます!と鼻息荒く宣言すると、「あと50mもないよ」と笑うおっちゃん。エッそうなの?


ワーほんとにそうだった。50mどころか20mもないくらい。小屋から徒歩一分、13:30登頂。


眼前に御嶽、遠く北アの笠ヶ岳がとんがり、先週登ったばかりの白草山は青々として、素晴らしい眺望に恵まれた。

なんか勝手に体調が悪くなって辛い山だったけど、体調が良ければ相当面白い山だったと思う。大満足に下山開始。


17:00、三の谷登山口へ戻る。難所はなく、ひたすら緩斜面のダラダラ下り。この下山の辛さはいつものこと……。

私たちが本日ラストで、車がぽつんと一台。おっちゃんたちがいなくてなんとなくさみしい。また来よう、前日にちゃんと寝て。