電子書籍


昨今、出版社の編集者でさえ(編集者だから?)電子書籍化の流れには逆らえない的な発言が多かった。でも事の実際は、日本では電子化が思ったほど本流にはなっていない。
そもそも本というのは、単に文字を羅列した電子的な表現法ではなく、装丁、紙の手触り、行間やフォント、インクの匂いまで含めての表現ではなかろうか。規模は小さいながらも総合芸術としての要素も備えている書籍という媒体を電子化するってのは、いわば舞台はDVDで見りゃ良いじゃんとか、絵は画集で見りゃ良いじゃんと同義の乱暴さがある。舞台も絵もまずは本体ありきで、それ以外の方法はコピーに過ぎない。本だってそうだと思う。紙媒体での出版がなくていきなりデータ化した文字を配本とか、遠い未来のことは知らんけど、少なくとも今の時代にはまだ受け入れられる土壌にはない、それが即ち思ったほど電子書籍化が一大ムーブメントにならない理由だと思う。

なんらかの機器の電源を入れるとか、残りのバッテリーを気にするとか、そういう邪魔くさいプロセスを経ての読書は、読者のニーズを分かってない。あれなんだっけ、と3秒だけぱらぱらめくることもあり、段ボールの奥から手触りだけでそれを見つけることもあり、古本の落書きや挟まった栞なんかのドラマをノスタルジックに想起する私としては、安易に電子化とか言ってる出版社って頭おかしいんかなと思う。出版業界の斜陽を打破するのは電子書籍化ではなくて、もう制度として限界を迎えてる再販制度に手を付けることじゃないんかと思うけどね。