笠ヶ岳(八座目/百)


秋の三連休は、お盆休み並に混雑するという。実際、去年の同じ時期に行った常念小屋では、この世のものとも思えぬ人口密度を体験してしまった。また今年も同じ時期に行こうって言うんだから自業自得なんだけど、それでも北アで恐らく一番不人気であろう(←勝手な!)笠ヶ岳だったら常念ほどの混雑もあるまいと高をくくったが、さすがは北ア、侮ってはいかん。まさかの大混雑だった。

【行き方】
中部縦貫自動車道の終点、高山で下り国道158号→471号で新穂高温泉郷を目指す。栃尾で右折し県道475号に入って間もなく新穂高温泉郷が近付く。無料駐車場は二か所で、鍋平と深山荘の二つ。それを通り過ぎるとあとは有料駐車場のみになる。


トップシーズン中、無料駐車場は深夜〜未明に到着してもまず停められないらしいので、21時には到着するように自宅を出発。新穂高温泉が近付くと、「深山荘駐車場は満車のため鍋平へ」との看板が。でも鍋平に停めると、歩く行程はプラス一時間になる。とりま看板は無視して進み、深山荘駐車場前へ。誘導のおじさんと、またしても満車の看板。それでも諦めきれず、窓を開けておじさんに話しかけると「まだ空いてるよ」だって。確かに残りは少ないけど、三〜四十台分くらいは空いてたんじゃないかなあ。ただ朝には全て埋まっていた。
駐車場内に簡易トイレ二つあり。連休中だからか、夜中にはおじさんたちが頻繁に巡回してるので、セキュリティ的にも安心。



駐車場は段々畑状に何面かあり、奥に行くほど登山道に近い。私の停めたところはちょうど中間くらいで、全て満車。奥の方に行くと道を塞ぐように駐車している車もあった。全く迷惑な……。



登山口へ向かう道にも延々と路駐は続いている。有料駐車場でも満車になっているところもあった。



一番登山口に近いあたり。両側に停めるとか最低だからやめなさいよ。ここ通り抜けるの大変だよ。



途中で車のカギを取りに戻ったりして時間をロスしたものの、小屋泊だから急いでいない。6:15、林道ゲート。



7:15、ぴったり一時間で登山口に到着。水場がある。ここから先の笠ヶ岳登山道は日の差す方に面しているので、晴れてると灼熱の暑さだから、水は大目に持って行った方が良い。私は二日分で二リットル持って行ったけど、全然足りなくて危うく熱中症。三リットルは必要だったかなあ。



三大急登の一つ、笠新道は登山口からいきなり急登で、そのテンションが変わらない。序盤は鬱蒼とした樹林帯を進む。まだ日が照りつけないだけマシ。



7:30、1450m地点。たった15分しか歩いてないけど、なんとなく笠新道を掴んだ。そうか、こいつ、ずっとこうなのか……しかもまだ1450てこいつまじで……



標高が上がるに従い、太陽が容赦なく照りつける。もうほんとに暑い!そしてきつい!どんどん斜度が上がって行く感じ。休憩できる広い平地のある杓子平までは、コースタイムで約4時間半。その間、めぼしい休憩場所もないからモチベーションの維持が難しい。



振り返れば、西穂から伸びる槍穂連峰が綺麗に見える。でもまあそんなのどうでもいいや……←出た


8:20、1700m地点
8:40、1800m地点
9:10、1920m地点

…と続く。ここまででだいぶヘロヘロになってきて、周りの人たちも口々にキツイを連発。そしてこれくらいの時間になると下山の人とも多くすれ違い、みんな口を開けば「こんなのまだまだ序盤だから」「これからもっとキツイから」「杓子平からがまた長いから」……ってどいつもこいつも……。気分は沈む一方で、普段はザックをおろして休憩すると余計に疲れるので立ったまま小休止することの多い私も、ここからは何度もザックをおろして岩陰で休む回数が増えていく。



休んでは歩き、歩いては休み、ひたすら無言で耐え続け、11:30、ついに杓子平。目に飛び込んできたものは、あまりに遠い笠ヶ岳山頂……。遠い、遠すぎる。ワア良い眺め〜なんて喜んでる人たちの脇でテンション下げながら昼休憩を取る。ちなみにみんなここで休憩するのですごい人だかり。座る場所探しも一苦労。それも疲れの一因なんだけどね。



杓子平からは広大な谷になっていて、それは見事な草原が広がっている。花のシーズンにはきっとたくさんの花々が目を癒してくれるんだろう。まさにアルプスの名にふさわしい光景……でもまあ疲れててそれどころじゃないんだけど。←出た出た



笠ヶ岳への稜線に出るまでが、また結構な急登。後半はガレて足場も悪い。見上げても、見上げても、一向に近付かない稜線。そして黙ってたけど、私ずっとトイレ行きたいの!!!今も!そう今もこの瞬間も!!はっきり言って膀胱パンパン(BPP)だから!!!そして私は決意した、もう上は見上げないと。



上は見上げないと決めたので周囲をきょろきょろする。美味しそうな実が成っていた。ツアーで来てる登山者の中で、こういうのを見かけるとすぐに手を出して食う人が何人かいた。これはね、金を払えばコンビニでもスーパーでもレストランでもいくらでも食い物を買える私たちが食うもんじゃなくて、これから厳しい冬に備えて、命をつなぐためにお山の生き物たちが食べるものなんよ。悪びれもせず実を毟るジジイババアは見ていて実に恥ずかしい。ほんの数人のこういう人のために、ツアーでぞろぞろ何十人も連なって歩いてる全員が同じに見えてくる。



上は見上げないと決めたので下を見下ろす。あら、なんか随分登ってきたんじゃない?



13:30、おわー!いきなり稜線に出たわ!!ああ見上げなくて本当に良かった!なんかものすごく得した気分!けど気は緩められない。何しろBPPですから。



さてと、行くぞ〜笠ヶ岳!……ってあれ?雲?



風がブオ〜っとなり雲は払われる。だ、だよね、そうだよね、雲とかやめてよね。



13:55、抜戸岩。ここまで来ればもう少しだ、笠ヶ岳〜!!



か、笠ヶ……



みなさん身に覚えがあるかもしれませんが、BPPはトイレが近付いた時が一番やばいんです。山小屋が近付き、テントサイトを横切ろうとすると、暖かいメッセージが。うん、私の膀胱は本当に頑張っています。



14:30、笠ヶ岳山荘到着。長い、本当に長い、私の戦いは終わった、そう実質ここで登山が終了したと言ってもいい。良かったハッピーエンドで。



と思いきやそうは簡単に終わらない。部屋に案内されると布団が。ご覧ください多分、一人で寝るのも割と小さ目な布団。そこに「二人でヨロシク」だって……ふっ、簡単に言ってくれるわね……まあ予想はしてたけどさ。



なにしろまだ15:00前、夕食は19時、まだ四時間もあるし、ゆっくり頂上でも極めて来ましょうか……ってなにこの雲……。



あらまあ頂上に人がたくさんいますわね。背景が白いからよく見えますわ、人が。



ここから見る槍穂の眺めは北アでも有数の……



……



山頂を下り、祠でお参りしてから振り返ると、ほんの少しだけ雲が切れた。一瞬だけ空が見えた。


さて、まあ混雑した山小屋の惨状は知ってる人は知ってる通りで、トイレも洗面も朝食も長蛇の行列、靴は行方不明、廊下にも人が寝てて足の踏み場もなし、寝返りも打てず頭は踏まれる、歯ぎしりいびき寝言のオンパレード、とても熟睡はできず、断続的な浅い眠りを繰り返す。でも食事はとてもデラックス。こればかりは毎回素直に感謝する。夜通し強い風が吹いていた。



なんだかんだで夜が明け、心配していた雨も大丈夫だった。ただ風がとても強い。6:10、身支度を整え笠ヶ岳を振り返るも、姿を現してはくれなかった。とにかくぼんやり立っていると倒されそうなほどの風。早々に出立する。



帰り道、ここにもメッセージが。本当にサヨナラ、多分もう来ないと思うよ!すごく良い山なんだけどさ、体力的に……。
そう考えると、感慨深いものがある。



そんな感慨もぶっ飛ばす稜線上の強風。ひらがなの「へ」って書くところを想像してください、その書くスピードの数倍の速さで白い雲が稜線をへの字に流れていきます。一人のおばちゃんが稜線上で恐怖から立ち往生してしまい、その場にへたり込んでいる。強風に晒されて同じく立ち往生する、私以下後続。ストックにしがみついて、足踏ん張って、それでも倒されそうになる。ほんと大変だったわ…。あ、でもこのおばちゃん、私たちから10分と遅れずに下山してきてたんで、あのあとすぐに立ち直れたんだろう。良かったね。


下山でのたうちまわるほど足(の指)が痛いのはもう毎回書いて詳細に触れるのも面倒だから省略するけど、とにかく苦しみながら下山し、前泊含め二日間風呂に入っていないため、とにかく温泉だーーー!!!と飛び込んだのは、ロープウェー乗り場すぐ横のホテルニュー穂高。ソフトドリンク(450円相当)がセットの入浴券950円は超お勧め。レトロな雰囲気のロビーに、岸朝子みたいに上品な喫茶コーナーのマダム、露天風呂からは下山したばかりの笠ヶ岳がくっきり!!……え、くっきり?……ふーん、あのあと晴れたんだね、そっか……。


嫌な思いも温泉で綺麗サッパリ洗い流し、大満足で帰路に付く。ただ一つ無念は、ソフトドリンクメニューにコーラがない。館内自販機にもない。ロープウェー乗り場まで行ったのにコーラがない。コーラ置いてよ、新穂高温泉!!