北海道へ・四日目 利尻山(十六座目/百)


利尻島の宿泊施設は、どこでも登山拠点としての配慮をしてくれる(らしい)。私の泊まった旅館も朝食をお弁当(おにぎり+バナナ)にしてくれるし、早朝登山口まで送ってくれる。
この日、同じ旅館から利尻山へ向かうのは私一人とのこと。道中見上げると、前日とはうって変わって山は麓まで雲に覆われていた。



5:05、登山口となる利尻北麓野営場の管理棟。綺麗な建物で、水洗トイレや自販機、公衆電話もある。市街地から車で数分の場所なので、登山口といっても市街と変わらない設備。



序盤は舗装された遊歩道。日中は、登山目的ではない観光客が自然観察に訪れたり、地元の人がこの先にある水場に向かって歩いたりもしている。



5:15、名水百選とやらにも選ばれているという『甘露水』。水もたっぷり持ってきているし、ここでは手を浸すだけに留め、旅館でもらったおにぎりを一つ食べる。
まだ歩き始めて十分だというのに、身体が重くて早くも疲労を感じる。一ヶ月以上ぶりの登山のうえ、家を出てから足かけ四日は水陸の移動で運動もしていない。というか実際荷が重すぎた。水は2リットル、軽アイゼンに、でっかいおにぎり二つとバナナ一本、過剰な非常食が非力な身体にずっしりのしかかる。



5:25、ペースがつかめないままダラダラ歩き、ようやく三合目。風が吹くたび、ガスで濡れそぼった木々から水滴がバラバラ落ちてくるが、レインウェアを着るほどでもない。荷を軽くするため水を飲み、おやつを食べ(歩き出してからまだ20分)、ザックカバーだけつけて、再びダラダラと歩き出す。



5:55、四合目『野鳥の森』。しばらくは合目のたびに荷を下ろして何か食べつつ休憩していたので、後続の人たちにじゃんじゃん抜かされていく。といっても平日で天気も悪いから、それほどたくさんの人は登っていなかったが。



6:40、五合目『雷鳥の道標』。このあたりからかなり風が強まってきた。もちろん展望は一切ない。精神的にも既に疲労困憊で悲惨なほど歩くのが遅いのに、なぜか絶対追い抜いてくれないオッサンが、休憩している私の横でやっぱり休憩を始める。歩き出しても、私の歩くスピードに関係なく、常に気配を感じる距離をキープしつつ歩いている。わざとだとは思わないが、ものすごく歩きにくい。こんなこともしばらく続き、精神疲労に拍車をかける。



7:10、コースタイムから遅れること40分でようやく六合目。ここから数分進んだ『6.5合目(うんと六合目寄り)』にはがっしりした携帯トイレブースがある。しばし逃げ込み、風雨をしのぐ。頑丈な造りなので、風も防げるし中は意外に明るくて静か。
利尻山は常設のブースが各所に設置されていて、携帯トイレさえ持っていればトイレには困らない。



7:40、七合目。早出なのか、避難小屋で一夜を過ごしたのか、下山してくる人とぼちぼちすれ違い始める。みんなレインウェアにスパッツ姿なのでどうしたものか悩むが、風は強いものの気温は低くないし、そこそこきつい登りで汗もかいているので、どうせレインウェアを着ても汗でずぶぬれになってしまうからそのまま進む。



8:20、第二見晴台。見晴らしなんて数メートルもないけど。お腹は空いていないが重いおにぎりを食べて軽量化を試みる。
と、件の抜かしてくれないオッサンが到着して、ここでも同様に休憩を始める。私が過剰にゆっくり食べてもまだ腰を下ろしているので、更にバナナを食べることにした。後続の兄ちゃんが、なぜこんなところで、こんな時間に、がっつり腰を据えてご飯を食べているのだろうかとでも思っているのか不審顔で通り過ぎていく。オッサンはそれでもまだ行ってくれない。私は絶対これ以上、この人の前を歩くのはイヤだという確固たる意志を持って伝家の宝刀kindleを取り出し、しばし没頭(そんなん持ってるから荷物が重い)。
何分経過したのか、気付くと後ろのオッサンはいなくなっていた。途端に体が軽くなり、遅れたペースを取り戻し始める。というかおにぎりとバナナが効いただけだろうか。



8:45、利尻八合目にあたる長官山(1218m)山頂。ここからは少し道がなだらかになり、ますます足が軽くなる。



長官山からの眺め。白い。



8:55、利尻山避難小屋。トイレブース二つあり。中には泊まりや休憩などで結構人がいる様子。
ここに至る直前、件のオッサンに追い付いてしまって焦るが、オッサンは避難小屋の中へ。距離を開ける好機がついに到来、ペースを更に上げていく。
が、ここからいよいよ強風で歩行にも支障が出るようになる。



9:25、九合目。風に煽られ、時折ふらつく。上から来た人に訪ねると、強風で諦めた人、上よりここの方が風が強いという人、山頂は強風で大変だったという人など色々。目に付いた人へ話しかけまくる迷惑な私。



ちなみに九合目のトイレブースが最終。これと同じものが6.5合目と避難小屋に設置されている。



ここから進む道。テンション下がるガスっぷり。



カメラを出せばすぐに水滴塗れ、足元は崩壊の進んだ歩きにくい砂礫、そして強風と、写真を撮る間もなくいきなり10:25、山頂。



そして三角点。



展望はゼロのうえ、直立は難しいほどの強風。スマホは出した途端に水没状態で、慌てて収納。到着した人たちも写真だけ撮り、すぐ下山を開始する。嗚呼北海道の山一発目、全然楽しくなかった。



途中、避難小屋で休憩など交えつつ11:45、八合目の長官山山頂まで戻ってきた。周囲は少し明るくなってきている。



12:25、六合目の第一見晴台。雲を抜けたらしく、街や海までようやく遠望できるように。邪魔なばかりでまだ半分以上残っている、2リットルも持ってきてしまった水で顔を洗ったり、おやつを食べたりして荷物を減らしていると、あっという間に上から雲が下りてくる。このまま雲と追っかけっこをしながらの下山が続く。



14:00、下山。そしてすぐコーラ!! 自販機のある登山口はこれがあるから大好き!!
荷が重く、展望もなく、風も強く、オッサンのストレスに晒されて一時はかなり遅れたものの、最終的にはコースタイムぴったりでの下山となり、めでたしめでたし。


……とはいかず、北麓登山口からフェリー乗り場に向かう足がない。タクシーを呼んでも「配車できる車がないです」と断られる。聞けば、いつもこんなもんらしい。飛行機やフェリーの到着するタイミングならもちろんのこと、観光タクシーで出払っていることも多いとのこと。呼んでも来てくれるとは限らない、それが利尻のタクシー。ちなみに登山口からフェリー乗り場までは歩いて4キロだって。



無事フェリー乗り場に到着、ここのターミナルビルも稚内同様に新しくてすごく綺麗。ガラス張りの壁からペシ岬がよく見える。



もっと余裕のあるスケジュールなら行ってみたかったけど。



島を離れるフェリーから利尻山を眺めると、上半分は雲に飲み込まれている。



さようなら利尻島。エサを目当てについてくるカモメが、どこまでついてくるつもりなのか一緒に乗船していた。



到着後、稚内フェリーターミナルから車で五分程度の所にある温泉施設『稚内天然温泉 港のゆ』へ。北の最果てとは思えぬ立派で綺麗な施設で、中には飲食店も。



お風呂上りに、同じ敷地内にあるロシア料理店『ペチカ』へ。もろ日本の味付けの料理もあれば、部分的に妙に本格的でもあり、なかなか美味しいお店だった。このときの外人率はかなり高めで、聞こえてくるのはロシア語だったり英語だったり関西弁だったり。



温泉に浸かりお腹もいっぱいになり、のんびり走ってこの日の宿泊地、宗谷岬へ。最北端で一夜を明かす。