北海道へ・六日目 羅臼岳(十七座目/百)


羅臼の道の駅でひと眠りし、深夜2:30起床。前日の散歩や温泉、自己流マッサージにサロンパスの効果もむなしく、筋肉痛は全然治っていなかった。狭い車内で身支度を整え、一路岩尾別温泉の登山口へ。



3:50、登山口にある『ホテル地の涯』駐車場から出発。
ホテルの駐車場以外には殆ど停められるスペースはないので、宿泊客と十組ほどのラッキーな人以外は路駐ということになる。この日は土曜日ということもあり、これまでになく車は多く、路肩には既に車の列が伸び始めていた。



4:45、オホーツク展望台。この日も雲が厚く、展望は臨めない。三時台の出発というこれまでにない早出ながら、いきなりの急登に筋肉痛の身体が堪え、後続に次々抜かされていく。



利尻の教訓を生かし、荷物を減らしたり歩くペースを考えたり色々試みたものの、とにかく身体が辛くて全然効果なし。私よりも年配のご夫婦なんかにもじゃんじゃん追い付かれ道を譲り、どんな表情をしていたのか「大丈夫?」とまで尋ねられる始末。筋肉痛でちょっとペース出なくて、と会話をした60絡みのご婦人には「私も今日で6座目だから身体が疲れて大変」などと言われつつ颯爽と抜かされ、ぐうの音も出ない。2座目でヘロヘロの私は一体……木々の間から展望を臨むも、相変わらずのガスで精神的にも上がってこない。



5:55、弥三吉水。登山口からここまでは樹林帯の急坂だが、ここから先は少しのあいだ楽になる。



6:05、極楽平の看板。その名のとおりこの区間は斜度が緩く、歩きやすい。すいすい歩いていくうちに、少し前で抜かされた女性に追い付く。このときもどんな顔色をしていたのか、「どっか病気なの?」と尋ねられる。登りが苦手で、と答えたものの、そんなんみんな一緒だ、と一蹴される。まあそうだけど別に病気じゃないです……。



6:30、仙人峠の看板。ここからは再び斜度も増し、そしてペースも下がっていく。



疲れたときは立ち止まり、周囲を見渡す。利尻のときよりは、幾分先まで見えるが、爽快感を感じるようなものでもなく、気分転換ともいかない。辛い登りが続く。



6:50、銀冷水。ここらに携帯トイレブースがあると思っていたら、なかった。テントみたいなものが張ってあると思ったら、それがなかった。あると思っていたものがない、ここになかったら羅臼にはトイレがない、コースタイムで往復八時間余りの行程、トイレがないのである。一気に肝を冷やす。ガンガン水を飲んでたが、自分、大丈夫だろうか。

でも家に帰ってきてから調べたら、確かにこのあたりにトイレブースはあるようだ。しかもテントじゃなく、ちゃんとした建造物があるとのこと。看板っぽいものは見かけなかったんだけどなあ。ないと思い込んだので、見つけられなかっただけだろうか。

かくしてここからは水をなるべく摂取しないように登っていく。そうするとスタミナの消費が大きくなり諸刃の刃なのだが、致し方ない。



銀冷水から少し登ると残雪が現れる。



7:10、大沢入口。ここからは時期によって雪渓歩きになるが、この日は殆ど雪も残っておらず、僅かな区間をトラバースするのみだった。



登山道沿いに、こびりつくように残った雪。



踏み跡もがっちりついて雪も少なく、アイゼンなどは必要なし。雪渓を流れる風は涼しくて、辛い登りもかなり楽になる。



8:00、羅臼平。じわじわとコースタイムから遅れていく……。



羅臼平はテン場なので、野営者のためのフードロッカーが設置されている。ヒグマ頻出地帯のこの場所に泊まる必要のある人って、どんな人なんだろうか。。



雲が幾分薄れ始め、山頂方面がよく見えるようになる。荒々しい岩肌。



お花はちょうど満開の時期なのか、どの場所でも綺麗に咲いている。



山頂が近付くにつれ、山の姿は一変。岩稜地帯になり、すれ違うのにも苦労する。



見下ろすと、さっきまで歩いてきた草原地帯とくっきり別れている。



辛いなあ、まだかなあ、なんて登っていた9:15、まさにいきなり山頂に到着して面食らう。まあそういう誤算は全然構わないけど。



十人も乗ればいっぱいになりそうな山頂で、私を追い抜いて行った人が「無事辿り着いたんだ、良かったね〜」などと声をかけてくれて、写真も撮ってもらった。残念な雲だけど気分は爽快。



ヤマネチ!(コマネチの反対)のポーズを取ってるこのお兄さんら二人組に、凍ったコーヒーを頂いた。何やらボランティア的な人らしいが、何のボランティアか聞き取れなかったので、宜しくお願いします!の声にとりあえずウンウン頷いて下山を開始する。



続々と人が登ってくる山頂直下で道を開けるためにしばらく立っていると、登山口でちょっと喋ったおじさんたちがやってきて、再び言葉を交わした。終始ガスってて残念でした、なんて話して下りて行こうとすると、「ちょっと待った、このガスは晴れる」と止められる。



おお……



うおお〜……



ほんとに晴れた!
聞くとこの方、北海道の山々を登りつくしている達人らしい。ミスターモーゼのお告げのおかげで、山頂から良い眺めを楽しむことができた。



知床連山に、ずっと縦走路が伸びていくのが見える。やはり登山の醍醐味はこれであって、展望がないなんてホントいやですよね〜。



何しろトイレがないんで括約筋に厳しい下山の道も、展望があると心に余裕が生まれ、切株の中に若芽ちゃんが育っているのにも気付く。
更にはツアーの団体さんとすれ違いざま、「もう下山してるなんて、早い!(登り始めたのが三時台)」「体育会系ですよね?(体育会系だったことは生涯で一度もない)」「女性で単独かっこいいっす!(他にも結構見かける)」なんて次から次へ私の気持ちよくなる言葉を掛けられ有頂天、全部否定せずまあね、という顔で受け流す。登りとはエライ違いなんだが、果たして下りのとき私はどんな顔してるんだろうか。



12:45、膀胱を宥めすかし、水分も極力控え、喉からからで小銭を取り出しながら一目散に向かった自販機はなんと、この有様。恨みます。お願いだからコーラはもっとたくさん置いてください。

ところでこの自販機に『知床応援自動販売機』と書いてあるのだが、山頂のヤマネチ兄ちゃんはこの自販機のキャンペーンをしていたらしい。知床の各所に置かれたこの表示のある自販機で飲料を買うと、いくらか自然保護に協力できるとか。



てことでこれを買うが、違うんだよな〜。


結局この日は、どこというわけでもないけど全体的に遅く、最終的にコースタイムより35分オーバーという結果。
下山後は昨夜と同じ夕陽台の湯で一番風呂をいただき、次の目的地の斜里方面へと移動するが、低気圧の通過で翌日の登山は中止と決定。てことで


六日ぶりの酒がもう美味いのなんのって!