北海道へ・八日目 雌阿寒岳(十八座目/百)


北海道の朝は早い。三時台後半にはうっすら明るくなり始める。でもこの日は轟々と風が鳴り、車に雨が叩き付けられていた。沢沿いに登山道のある斜里岳は、例え朝になって晴れたとしても増水しているだろう、と無念の中止を決定。

天気は西から回復するとの予報で、道東の斜里は回復が一番遅い地域になる。少しでも晴れた方へと、西に向かって出発する。


到着したのは雌阿寒岳。今回予定していた山行の中で往復3時間40分と最もコースタイムが短く、昼から登っても日のあるうちに下りて来られる。
しかし登山口ではまだ土砂降り。こんな天候にもかかわらず、到着したツアーバスからはレインウェアのご一行がわらわら出発して行く。頑張るな〜とそれを見遣りながらもう少し待機すると、わずかに雨は弱まっていく。でもこのまま待ってもスッキリ晴れることはないだろうし、次の移動のことも考えるとあまり遅出はしたくない。渋々レインウェアを身につけ、出発。



10:20、雌阿寒岳温泉登山口。駐車場からここにくる僅かな距離で、レインウェアの暑さにうんざりする。嫌な予感……



10:35、一合目。たった15分歩いただけで息も絶え絶えに苦しい。上も下も、水が入らない全てのファスナーを開けてベンチレーションを図るが殆ど意味なし。とにかく普通に歩いていてはスタミナの消耗が激しすぎるので、なるべく汗をかかないようにゆっくりゆっくり登っていく。



10:50、二合目。身体の状況は全く変わらず。ただ道に関しては、しつこいほどリボンやマークがつけてあるので、道を見失うようなことはない。



11:05、三合目。ハイマツがトンネル状になった樹林帯を進んでいく。枝からボタボタ水が滴り、露出した顔からは滝のように汗が滴る。利尻も羅臼も長くて辛かったが、この辛さの比ではない。レインウェア地獄に文字通り足掻きながら進む。



11:25、四合目。少し開けた登山道になって風通しがよくなり、ちょっとだけ楽になる。雨もかなり弱くなってきた。



ちなみに四合目からの景色。



11:35、五合目。



ちなみに五合目からの景色。



12:00、六合目。



ちなみに六合目からの景色。



12:05、七合目。



ちなみに七合目からの景色。

もういい?



12:20、八合目。風がかなり強く、硫化水素の匂いも強くなってくる。雨はもう止んでいたが、ガスの中なので身体は濡れる。火山性の物質がガスに含まれているのか、睫毛にたまった水滴が目に入るとかなりしみる。



12:35、九合目。このあたりになると斜度も緩くなって汗はかかなくなるし、風は一段と強く吹き付けるので、汗が冷えて今度は寒くなってくる。



12:50、山頂。このときだけ急に雲が薄くなって日が当たった。
ガスっててよく分からなかったけど、とんがった山頂ではなく、登山道上にいきなり山頂があるような感じだった。ほんの少し前を先行していたご夫婦のご主人が写真を撮ってくれると言うのでお願いしたが、カメラも吹っ飛ばされそうな強風なので、待たされてる奥方がかなり不機嫌そう。すんませんね。



14:15、下山。この日も全体的にじわじわ遅く、最終的にコースタイムより15分オーバー。展望ゼロで、ただ登りただ下りただけのこの山は、本当に辛かった。コースが短いからなんとか耐えれたけど、もう一時間も余分にかかっていたら、本当にリタイヤしたかもしれない。それくらい、精神的にきつい登山だった。

登山口に帰ってくるわずかに手前で、登る前にちょっと会話したおじさんが入れ替わりに登っていくのとすれ違った。天気がよくなったので登ってくる、と嬉しそうな足元は地下足袋。なんでも熊本からフェリーでやってきて、既に一ヶ月以上北海道の山々を登っているらしい。二時から登り始めるくらいだし、足元が玄人だし、相当な健脚なのかもしれない。
何よりこの話好きのおじさんは、朝はレインウェアで固めた私を男と勘違いして話しかけ、レインウェアを脱いで下りてきた私に「すごいなーモデルさんみたいだなー」と何度も褒めてくれた間違いなく素晴らしいおじさんです。
良いとこなしで辛いだけの思い出となる寸前だった雌阿寒岳は、おじさんのお蔭で相当に気分よく終わったのである。おじさんありがとう。


気分よく雌阿寒岳を後にし、気分よく30キロほど離れたところで、ふと思い出した。

そういえば山バッジ買ってない

チッまたかよ……褒められて有頂天になって忘れてた……。
ということで30キロの道を取って返し、バッジを買うため登山口の横にある野中温泉別館に入る。ついでに温泉にも入ってしまう。

浴場に入ると、床も壁も全て木、浴槽がいっこあるだけで、蛇口の類はどこにもない。壁からパイプを伝ってじゃぼじゃぼ浴槽に入ってくる温泉は、壁へと抜ける雨どいで溢れてじゃぼじゃぼ排出されていく。どう見ても垂れ流しっぽいので石鹸の類も使うのは憚られる。仕方なく頭から温泉をじゃぼじゃぼかぶり、適当に手でごしごし身体をこすってから、浴槽にじゃぼ。でも湯上りはこれまでにないほど気持ちいい。山はイマイチだったけど、温泉はとても良かった。



さて雨の登山で色々とドロドロになってしまったので、ちょっと寄り道してコインランドリーを目指す。ナビに言われるまま進むと、国道を逸れて道道に入っていき、国道沿いに見かける大規模な農場ではなく、こじんまりとしたアットホームな農場を見つける。



車を停めた途端、牛たちがモーモー騒ぎながら寄ってきて、あっという間に一列に並ぶ。な、なんなの?? よく分からないけど、集まってもらって申し訳ないので、さっさと立ち去る。



更にそこから走ると、道道が砂利になる。本土でいうところの県道とかですよね……。看板だけはよく見かける案内表示だけどその下の道がすごいんですけど……。

狭く暗い林道のような砂利の公道を心細い思いで何キロも走らされた。もう絶対このナビには従わん。



無事に北見市へ抜け、洗濯も済ませ、近くのラーメン屋で夕食。お昼も食べていないのでミニチャーシュー丼をプラス。ダブル玉子になってしまった。