山伏


今シーズンから冬山に行ってみようかなと道具を買いそろえてみたが、夏と違って、冬に単独登山はちょっと怖い。どこの山に行けばいいのかもよく分からない。ついでに実家の退去期限も迫り、片付けに翻弄され年末年始も大忙し。やっとスケジュールに都合をつけても天気が悪い。なんてことが続き、結局行けるタイミングが一月も最終週に入ったこの日になってしまった。

今回向った静岡県の山伏は、冬山初心者でも大丈夫(的)と静岡在住の山屋さんが教えてくれた山。右も左も分からぬ静岡の地で、その方とは当日オンラインでつながりつつ、色々とお世話になった。


【行き方】
新東名の新静岡ICを出て、県道29号を安倍川に沿うように北上、梅ヶ島温泉方面に向かう。「梅ヶ島新田温泉 黄金の湯」の1〜2キロほど手前に「新田」なる交差点があり、そこを左に入るのが分かりやすい。ただ1月28日現在はそこを曲がってすぐのところが工事通行止めになっていて若干回り道をしなければならないので、新田よりももう少し手前の「赤水」を左に折れた方がいい。



家を出たのは日も明けやらぬ5時少し前。登山口付近に近づいてからウロウロ迷ってしまい、駐車場に到着したのは8:10頃。先着が二台あった。



8:40、身支度を整え出発。風もなく随分と暖かい。着るもの一つにしてもどの程度がいいのか分からないし、靴自体が新品で紐の結び方からしていつもと感覚が違う。何をやるにもやたらと時間が取られてしまう。



ヤマレコでもよく見た登山道入口の「山火事用心」。



少々進むとトロッコかなんかのレールが。このあたりで先行のおじさんが一人降りてきて、装備が登山ではなかったし、営林小屋っぽいものも見かけたので、林業的な人だったのだろうか。



沢に架かる橋。三ヵ所ほどあったように思う。橋自体は立派なもので有難い限りだが、ハシゴがかなり傷んでいてポッキリいきそうで恐い……。



序盤は雪もなく、なかなか森深い木立の中を歩いていく。木漏れ日が綺麗。



沢を横切る場所も何ヵ所か。この日は水量も少なくひょいひょい渡れたが、雨の翌日など水量の多くなりそうな日は注意がいるのではないだろうか。



9:40、大岩。これもヤマレコでよく見る大岩を支える小枝ちゃんたち。ここに到着するまでに新品の靴のせいで随分と足が痛くなり、道中は何度も紐を結び直したり、上着や帽子を出したりしまったり、とにかく動きが遅かったので一応コースタイムを確認。

やばい五分も遅れているではないか

しかも今回は地形図とヤマレコばっかり見ていて、事前にコースタイム入りの地図を確認せずに山へ入ってしまった。その場で計算してみると、結構な時間がかかることをここにきて初めて知りショックを受ける(=割とやる気をなくす)。



大岩を過ぎるころから、登山道がところどころ凍っている。雪っぽく見えたがツルツルの氷で、一歩踏み込んですぐ転び全く歩けない。始めのうちは道を外れて葉っぱの上を歩いたりしていたが、道なき道を歩くのは大層疲れるしやってはいかんことのようにも思うので、ついにアイゼンをつけてみる。
初アイゼン、これが感動的なほど滑らない。氷が出るたびアイゼンを装着、道に氷がなくなると外して、両手で持ってぶらぶら歩く(恐らく転んだら危険)、なんてことを続けていたが、異常に時間を取られこれは絶対使用法が違うとようやく思い至り、雪のない部分もアイゼン歩行することにした。スパイクみたいなもんで特に違和感もない。多分これが本来なんだよねきっと。まあ木の根っこにはとても悪そうだけど……できる限り避けてはいたが。



10:45、ようやく蓬峠。じわじわと確実にコースタイムを遅れながら進んでいく時間にソワソワし始める。

このままでは温泉に間に合わないかもしれない!!



蓬峠より先はいかにも冬山らしい雪道になるが、更に進むと場所によっては全く雪の消え去る場所もある。



温泉に間に合わない……と焦る私に追い打ちをかけるように、木立の合間から見える空はいつの間にか雲で覆われている。
え〜朝はあんなに晴れていたのに!
この上展望もないなんて遠征の私には辛すぎると、更に気ばかり焦って全然足が動かない。



12:45、西日影沢分岐。蓬峠からここに至るまでのあいだに、後続のおじさんに追いつかれ、ちょっとお話をする。地元静岡の人で、山伏には30回以上登っているというベテラン。私が愛知から来たというと、鈴鹿の山に一度行ってみたいのだが登ったことある? などと聞いてくる。このおじさん自体がとても感じのいい人だったというのはもちろんだけれども、静岡の人って言葉がなまってないのねと驚く。それだけで妙に紳士に感じ、丁寧に(ほとんどは聞きかじりの)鈴鹿情報を惜しみなく提供する。



西日影沢分岐より先は、想像していた「冬山」らしい光景。起伏の緩い稜線を、トレースをなぞりながら進んでいく。



広い山頂へ伸びる道の綺麗なこと!



13:00、山伏山頂。向かって左に南アルプスの山々。こちらは雲が多いものの、展望を得ることができた。



右には富士山が、あるはず。こちらはすっぽり雲の中で、裾野がごくごくわずか覗いていたものの、それもすぐに見えなくなった。



私を追い抜いて先に着いていたおじさんが、昼食の手を止めて写真を撮ってくれた。ここから見える南アルプスの山の名前、そして山伏のことなどを色々教えてくれて、おじさんどうもありがとう!!


さて、「もう時間がないよ」と心配するおじさんの読み通り、すっ飛ばして下山したものの時間は既に15:30。急いで汗だくになり、それが冷えて震えるほど寒い。そのうえ例の凍った道で転びまくり全身痛い。そんなリスクを冒して急いだのに温泉に入れないなんて悲惨すぎる。

行く予定だった黄金の湯を通り過ぎ、一縷の望みを抱き向かったのは程近い梅ヶ島温泉郷。しかしそちらも既に日帰り入浴タイムは終了。たまたま「どっか入れる温泉知りませんか」と尋ねたおじさんが、私の様子があまりに哀れだったのか、うちで入っていけと言ってくれた。ヒエヒエの身体に温泉が死ぬほど沁み渡る!!! 恩人は梅薫楼、というお宿。今度は家族連れて来ます、おじさんありがとう!!


更にはご飯を食べ損ねた私に、そもそも山伏に来るきっかけをくれた山屋さんが美味しいご飯屋さん候補を教えてくれた。検索して行くことに決めたのは、のっけ家というお店。その名のとおりご飯になんぞ色々乗っている。私は迷わず海鮮丼、ウマい! お店のおばちゃんも、ごはんの写真を撮っていいか尋ねる私に二つ返事で快諾してくれた優しいお方。

しかも偶然なことに、ご飯を食べたお店から山屋さんの職場が徒歩圏内と判明、仕事終わりにちょっとお会いすることになる。

二杯目のコーヒーを飲みながら待っていると現れたリアルの山屋さんは、山屋ではなく靴屋さんで、お洒落な場所で働くお洒落なジェントルマンでした。今日登った山の話やらなんやらに付き合ってくれてどうもありがとう!

静岡人いい人ばっかだなもうほんと最高。
山? ああ、山ももちろんね。でももうちょっとトレーニングしよ。