原点


誰しも、自分という人間を成す上で原点となっている心象風景があると思う。

私もことあるごとに思い出す2冊の詩集がある。子供用の、手帳くらいの大きさの、ハードカバーの詩集で、私のイメージに残っている絵と詩は、それぞれ違う詩集だったのかもしれない。あるいは、どちらか片方だけの記憶かもしれない。
一冊が姉のもので、もう一冊が私のだったかもしれないし、2冊とも姉のだったかもしれない。とにかく私が小さい頃、家にはその2冊の詩集があった。

広い草原に小さな家がぽつんとある。柔らかいパステルグリーンの草原に、雲一つない青い空、白い小さな家。夜の草原もある。広大な夜の草原、黒い空、そして小さな白い家。その絵を思い出すととても寂しいような懐かしいような涙が出そうな気持になる。私はその小さな家にいつも夢を描いていた。小指の先ほどに描かれた、抽象的な正方形の家の中に、ワイエスの絵と同じだけの精密な内部と、広大な草原を想像した。

詩には興味が無かった。だから覚えているのは、「夢みたものは」というタイトルだけ。検索したら、誰のものなのかはすぐ分かった。今読めば、ノスタルジックな良い詩だ。でも私の夢みたものは、詩が誰のものだったか知ることではなく、あの詩集そのもの。あのハードカバーの、小さなあの詩集をもう一度見たい。それは叶わない夢そのもので、決して再び手にすることのできない夢。

そんなことがあるので、家中のものを躊躇なく捨てられる私でも、本だけは捨てられない。スペースがある限りは、子供の本も残しておいてやりたい。意味の残る本は、必ずしもお気に入りの本じゃない。何が自分にとって大切になるのかは、大人になってからじゃないと気付かない。

あ、あともう一つ。なんかのCMが私の心象風景になっている。CMそのものもそうだし、CMを見ている子供の頃の私を、背後から眺めることもある。なんのCMかは覚えてない。街に緑を……とか、なんか公共CMっぽかった気がする。

まちに鳥の声〜
しゃらら〜しゃらら〜らら〜
フーンフーンフーン(曖昧)
グリ〜ングリ〜〜ン

ていうフレーズのみ記憶。youtubeとかにないかなあ。キーワードが分からんから検索もできないけど。

(追記)歌詞で検索したらあっという間に見つかった!WEB社会恐るべし。しかし脳内の記憶と全然絵柄が違うので面白い。